■結婚できるという幸せ　2：心斎橋マリーシンシア

写真撮影のとき、お母様はずっと娘さんの姿をご覧になられニコニコしていらっしゃったのですが、フト私たちに小声でおっしゃるのです。
「私、申し上げませんでしたけど、あの娘（こ）ね、ガンなんです。抗癌剤の副作用で、髪の毛があんなになってしまいまして、それに先生の話で、『あとどれくらいかは時間の問題です』って、それで私らの思い出の為にこうやって写真を撮っておこうかということになったんですが、こんなにキレイにしていただいて本当によかったですワ」

　お母様の言葉を伺ったとき、どのように返事をしてよいかは分かりませんでした。ただ“エ？”という驚きの言葉しか出せず、あまりにもボキャブラリーの少ない自分に情けない思いをしておりました。

撮影後3週間ほどして、お母様が仕上がりの写真をもって帰られてからというもの、何の音沙汰もなく、私たちも忘れておりました。
しかし数日前にドレスショールームの店長から「亡くなられた」との話を伺い、胸が締め付けられる思いをしたのです。（つづく）